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『BENT』という時代

『死』を肯定するのは難しい。
ましてそれが自らの手で終止符を打つ、という行為であれば。
『死』を扱った作品は数あれど、真っ向から向き合って『死ぬ』ことを昇華した作品にはなかなか出会えない。


RENT』のメインテーマ、「Season of Love」を初めて聞いたのは日本版だったけれど、忘れられない歌詞があった。
「♪~出会いの数か、別れの時か、燃やした過去か、死に様か~♪」
生き様、はよく使われている。
人は誰でも悔いのない人生を生きたいと望むのだから。
死に様
どう生きるか、ではなく、どう死ぬか。
否応なく『死』への切符を渡されたら、そう思うのだろうか。
忘れかけていた『RENT』と再会した、まさにその時期に『BENT』を深く知るチャンスを得た。

BENT』という名前を最初に観たのは日本の演劇関係の情報だったのか、それともヴィゴさんの経歴を調べているときだったのか・・・。
ともあれ、過去にヴィゴさんが舞台で演じ、賞を受賞した作品である。
彼がどの役を演じたのか定かではないし、ちょこっと検索しただけじゃ写真も出てこない。
気になって気になって作品自体を調べていたら、映画が引っ掛かってきた。
主演はクライヴ・オーウェン。
当時、彼がどんな役者か判らず、レンタルを探すも最寄りでは見つからず。
中古を購入する決心が付かずに、一度はスルーしてみた。
しかしどうやらこの作品とは縁があったらしく、程なく『キング・アーサー』公開の情報が入る。
そう、主演はクライヴ・オーウェンである。
『キング・アーサー』という作品に納得したわけではないが、これで購入の決心が付いた。
なのに、そんな時に限って購入できるVHSが無い(DVDは出てないのだ)。
こまめに検索をかけ続け、ようやく手に入れることが出来たこの映画。
「買って良かった・・・」
思わず握り拳(笑)
作品にも衝撃を受けたけれど、クライヴ・オーウェンという役者を見直すことが出来たのも行幸。
クライヴ、控えめだけど渋くて良い演技するね。
今思えば、クライヴもマートンも同一カテゴリ。ええ、思いっきりツボなわけですよ、なはは~。
間もなく公開になる『 インサイド・マン』も楽しみだ。



‡BENT‡BENT‡BENT‡BENT‡BENT‡BENT‡BENT‡BENT‡BENT‡

BENT
「第二次大戦下、ナチスドイツの支配した狂気の時代。ユダヤ人に黄色い星がつけられ迫害されたように、彼らよりも下等に扱われ、ピンク・トライアングルの印をつける事を強要され、収容所で虐待された同性愛者達の悲劇を描く舞台の映画化。日本では役所広司が、N.Y.ではリチャード・ギアがその舞台に立った。」

上記が某大手レンタルショップにおける作品紹介である。
舞台初演で主人公マックスを演じたのはサー・イアン・マッケランである。
そして、映画においても彼はマックスの伯父(彼もまた同性愛者である)を演じている。
『BENT』という時代_f0009833_18504563.jpg

作品の詳しい紹介は狼さんの拙い頭で練るよりも、豆酢さまDrectar's Chea でご覧になってください。素晴らしいレビューで作品はもとより、作者について、時代背景についても判りやすく解説してくださってます。
狼さんは豆酢さまのレビューを読んで、戯曲も読んでみよう!と決心したのであります。

簡単にいっちゃえば、ナチ政権下の同性愛者の悲恋であるのですが、それだけに止まらない重さがある。
ご存じのように、ナチ政権下においては優秀なアングロサクソン人種以外は「人間」と見なされて居なかった。
ユダヤ人種の虐殺が取り上げられるが、それ以前に最下層扱いで迫害されたのがゲイ-同性愛者である。
この場合、女性はその範囲に入らない。
何故なら、彼女たちは-そこに本人の意思は存在しないしなくても-子供を産むことが出来るからだ。
同性愛者のピンクの三角
ユダヤ人種の黄色の星
マックスはささやかなプライドを守るために「黄色の星」を選ぶ。
その為に「人間としての尊厳」を失うことになっても。
恋人では無い、と言いつつ一緒に逃げ続けたダンサーのルディを己が生き延びる為に見捨てた。
(ルディは眼鏡をかけていたため真っ先に目に止まり、リンチを受ける)
側にいたホルストはマックスに囁く。
生き延びたいなら助けようとするな、と。
憲兵隊に「友達じゃないなら、殴れ」と言われルディを殴るマックス。
「ゲイじゃ無いなら、抱いて見せろ」とユダヤ人少女の死体を示され、衆人環視の中、少女の死体を抱いて「黄色の星」を手に入れるマックス。
『BENT』という時代_f0009833_18513250.jpg

収容所への移動の中ホルストを捜し、「生き延びるための取引だ」と強がりつつも「黄色の星」を手に入れた経緯を話すうちに涙があふれ出す。
「彼女は天使だ。俺を生き延びさせてくれた」
ずっと自分を支えてくれたルディを見捨て、自分自身すらも偽った。傷ついていることすら否定しようとするマックスは、差し伸ばされたホルストの手も言葉も拒む。
「触るな、俺は汚れてる。俺は人間の屑だ」

収容所で1人、他の囚人達とは離されて石を運び続けるマックス。
作業とは言えない作業。
ただ、石を運び、山を作って、またその山から元の場所に石を運び山を築く。
マックスは看守に賄賂を渡してホルストを同じ作業場に呼び寄せる。
最初は反発するも、言葉を交わし、互いを支え合う。
暑い夏のある日の休憩。
『BENT』という時代_f0009833_18515614.jpg

休憩も立ったまま。すぐ横に並び、お互いの姿を見ることはない。
監視に気付かれないよう、囁きあう2人は言葉と感覚でSEXをする。
それは、ナチに対するささやかな反乱。
そして冬の近づいた秋のある日、ホルストはマックスに囁く。秘密がある、と。
「お前を愛してる。どうだ、すごい秘密だろう」
「ダメだ、俺を愛するな。憎め」
「おれの勝手だ。おれはお前を愛してる」
誇らしげなホルストは、お前の方を向いて左の眉を掻いたら「愛してる」の合図だ、と告げる。


触ることはおろか、顔を見て話をすることすら困難な中での愛の交歓。
映像ではカメラワークでその感覚を“見せる”ことは出来るが、舞台でそれを観客に伝えるのは役者の演技力に掛かってくる。
戯曲を読みながら、頭の中では映画のシーンを再現することしか出来なかった。
どんな風に見せてくれていたのだろう。
生半可な演技力、というか、“演技”じゃダメなんじゃ無いのだろうか。
自分の中にある「マックス」や「ホルスト」を探しだし、観客もスタッフも全てを“監視者”と見なして全身全霊で相手を感じ、愛したのではないだろうか?
やっぱり舞台が見たいな。


冬になり、秋頃から咳をし続けているホルストは急激に体力を失い、心も弱くなっていく。
心配したマックスは看守と取引をし、嘘をついて担当士官から薬を手に入れ、ホルストに渡す。
しかし、程なく様子を見に来た士官が事情をさっする。
そして咳が止まらないホルストが処刑される。マックスの目の前で。
帽子刑。
高圧電流の流れる鉄条網に自分の帽子を投げさせ、それを取りにいくように命じる。
帽子を取れば感電死。逆らえば銃殺。
帽子を取りに歩き出す直前、マックスを振り返ったホルストが左の眉を掻く。
鉄条網の直前でホルストは突然振り返り、士官につかみかかろうとするも叶わず、銃弾を浴びて息絶える。
死体を片付けるよう言われ、無意識に答えるマックス。
士官が遠ざかり、ようやく動き出すマックス。
休憩のサイレンが鳴り渡る。


ホルストの死体を抱いたまま、堰を切ったように思いを語るマックスの言葉に涙が溢れた。
気が付いたら本の紙面に水滴がぼたぼたと(苦笑)
映画を観たときは、そのあまりの痛ましさに涙が出なかったのに、文字と映像が重なった瞬間、ただもう言葉にならない感情が涙になって溢れてきたみたいだった。
・・・自室で読めば良かった。
ファーストフード店の片隅でフライドポテト銜えながら本を読んでぼろぼろ泣いてる、ってどうよ(苦笑)


休憩終了のサイレンの音に突き動かされるように、マックスはホルストの身体を死体処理用の穴に移動させ、石運びの作業を再開する。
しかし、マックスは石を置き再度ホルストの元へ戻る。
彼の、ピンクの三角の付いた上着を脱がし、自分のと取替えて羽織ると、まっすぐに躊躇うことなく鉄条網へと歩き出す・・・。

戯曲ではこの後、舞台いっぱいに光が拡がりマックスの姿をかき消して終わるが、映画では最後まで見せるのだ。
決してその死が、崇高なモノではない、と言うように。
けれどそれはマックスにとっての真実。
与えられ、強いられるのではない、自分で選び取った“真実”なのだ。


読み終わって、ファーストフード店のペーパーで鼻かみながら、これで舞台を見ることが出来たら「BENT」が自分の中で昇華出来るのに、と思った。
まだ、重い痼りのように心の片隅にマックスとホルストが蹲っている。

‡BENT‡BENT‡BENT‡BENT‡BENT‡BENT‡BENT‡BENT‡BENT‡

戯曲を読みながら、脳内シアターで映画を再現していたのだけれど、気が付いたらクライヴがマートンに換わっていた・・・。
同一カテゴリだからいいよね(爆)
で、ルディがクレイグ(ハルディア)になってたのは単なる趣味だろうな(爆死)
でもホルストは映画のホルストの印象が強すぎて変換不可。
印象、印象、い・・・ん、しょう。。。あれ?
・・・ゴメンね、クライヴ。結構好き、とか言いっといて、やっぱこれだよ(自爆)
もしも舞台再演あるなら、マートンにやって欲しいな、マックス。
イメージがクライヴと被りすぎててダメかな?
サー・イアンに聞いてみたいかも、そこんとこ。
サーならクライヴともマートンとも共演してるから2人のことも解ってるだろうし、なによりマックス初演!ですから。

クライヴってそう言えば「ボーン・アイディンティティー」に出てたんですよね。
それも“トレッド・ストーン”の一員で、ボーンを追いつめる役。
・・・立場がマートンが演じたJardaと一緒じゃん。しかもボーンに殺されてるし(苦笑)
やっぱ同一カテゴリだったのね(自爆)
違いはマートンはコスプレ似合うけど、クライヴはコスプレ似合わない!(断言)
ふっふっふっ、勝った(何がだよ・爆死)
by Mc-Wolf | 2006-05-19 18:56 | モノ想い

日々のつぶやきと、NZ出身半分マジャール人俳優「Marton Csokas=マートン・チョーカシュ」を探す旅を徒然なるまま狼日記。


by 雪狼